NBSの連載小説 第三弾    僕シリーズについて

Episode 12 僕の決意

 「この消火器設置の設計を担当した僕さんは、どちらですか?」
 建物の検査に来た予防課の消防官がこう言ったとき、僕は反射的に先輩の背中に隠れようとした。しかし、先輩が一斉に身を引いたため、前かがみのまま検査官の前に一歩出てしまった。
  少し驚いた表情で僕を見る検査官。
 「(なんだろう? 何か間違ったか? 叱られるのか?)」僕は恐怖で口をパクパクさせている。
「いやぁ、僕さんですか? この消火器の配置は、建物のデザインや生活導線に合わせて、絶妙に設計してありますね」と検査官。

 その夜、先輩たちに連れられて飲みに行った席では、「絶妙」をキーワードにいじられたけれど、それは先輩も社長もきっと僕と同じくらいうれしかったからなんだと思う。

 息子が1歳の誕生日を迎える頃、会社の保養施設のチケットをもらって、はじめての家族旅行に出かけた。
 家族風呂を借りて、3人で温泉に入ったとき、僕は嫁に前職の先輩と再会したことを打ち明けた。
「知ってるよ。電話で話しているの聞こえたもの……それで、戻りたいの?」目を合わさずに嫁が聞く。聞くというより、「戻りたいんでしょう?」と決めつけているような口ぶりだ。学生時代から付き合っている嫁は、その業界に対して僕がかつて持っていた情熱をよく知っていた。

 先輩は、あれ以来猛烈に復職を迫ってきていた。「せっかくのお前のセンスと技術を無駄にするのか」と。
 しかし、僕はとっくに決意を固めていた。僕の想像力は、この仕事でも生かせることがもうわかっている。

 NBSは、消防設備だけでなく、照明や電気、通信、空調など、建物の設備全般を扱っている。建物の安心と安全、そして快適さを提供するためには、設備そのものを超えて、その建物で営まれる人の暮らしに想いを馳せる必要があるのだ。

 「挑戦したいことがあるんだ」相変わらず目をあわせようとしない嫁の横顔に僕は言った。
 「次は、電気工事士の資格に」。


■このコンテンツは、特定のスタッフを描いたものではなく、全員の経験をもとに書き起こしたフィクションです。NBSの社風に関しては、かなり忠実に描いています。