NBSの連載小説 第一弾

Episode 16 僕を工事に連れてって♪(1月某日)

消防設備会社の人(女性)の電話。「僕さんをお連れしたいところがあるんです」の一言から、(いやまいったな。来週は奥さん帰ってきてるし。近所の噂になってもまずいな)などと、瞬時に妄想が膨らんだが、それに続く「実は市内の団地で火災警報器設置の工事が始まりますので、ご参考になるかと…」の言葉で、瞬時にしぼんだ。その間約、2.5秒。あっけない脳内ロマンスだった。
それでも、女性に誘われるのはいいもんだ。彼女が工事の説明をしてくれるなら、願ったりかなったり。僕はちょっとした高揚感を保ちながら週末を迎えた。奥さんに、「消防設備会社の人(女性)が工事を見せてくれるんだって。消防設備会社の人(女性)が迎えに来たら行ってくるから。帰りは消防設備会社の人(女性)が送ってくれるそうだ」と、主に(女性)の部分を強調して言って見たが、気にもとめてもらえなかった。
その団地に向かう道、彼女は運転しながら、僕にその団地の概要を話してくれたた。その団地は築26年。2階建て、3階建ての低層の建物が40棟ほど敷地内に並び、その全ての部屋には、自動火災報知設備も、住戸用自動火災報知機も設置されていないそうだ。住民は高齢化し、火災の犠牲になりやすい年齢でもあり、設置義務化にむけて管理組合などで協議が進められて来たが、難航していたと言う。しかし、ある火災のニュースで、「火災警報器がついていなかったため、気付くのが遅れ、被害の拡大につながった」と報道され、急に議論が進展。きめたから「一日も早くつけて!」ということになったらしい。
車から降りると、まず団地に植えられている木の大きさに驚く。通路の石畳も感じ良くコケが生え、団地の歴史を物語っている。
「さぁ、工事をしているのはどの棟ですか?」とやる気満々で僕が聞くと、
「ちょっと待ってください。ああ来ました来ました。こっちこっち」と誰かを呼んでいる。
(え?なに?なんですと?)
現れたのは屈強そうな30代男性。白い歯がやけにまぶしい。「彼が我が社の火災警報器取付けNo1です。彼がご案内しますので。見ていただくお部屋は、ここの団地の設備担当理事さんのお部屋です。では私は違う棟の工事に行きます。帰る時は携帯にお電話くださいね」(ちょっと、ちょっと!ぉ)
仕方なく僕は、男性の逞しい背中に導かれながら、設備担当理事の部屋に向かった。
理事の部屋の前では、見習い風の若者が道具を揃えて待っていた。その傍らにこの団地の設備担当理事の姿。年は僕より2回りは上だろうか、聞けば、最初に理事をやって以来毎年引き受けて25年になるそうだ。「断れない性格(たち)なんでね」と笑う理事の姿に、25年後の自分が重なり、思わず頭を振って想像図を振り払う。
26年前に建てられた団地でも、定期的な改修のためか、まだまだきれいで、しっかり管理されているなという印象を受ける。部屋の広さはさほどでもないが、アーチ型のリビングのドアや、出窓など、当時は相当おしゃれな物件だったのだろう。今は、それがレトロな風情を醸し出し、別の魅力を与えている。

僕が、理事と話している間に、消防設備会社の人(火災警報器設置NO1と補助の若者)は、風のように部屋を行き来して、あっという間に設置を終えてしまった。僕は、理事の頭越しに見ていただけだが、尋常ではない早さと気配り(粉塵に対する配慮など)に感服しきりだった。
じっくり見れなかったことを言うと、理事が「この後の部屋もどうぞ見てください」といっしょに来てくれたのだが、さすが26年の近所づきあい。ピンポン押して即座にドアを開け「山ちゃん~いる~?」(山本さんの家)「いるよ~入って~」これですべて通用してしまう。
僕のマンションでも自治会活動は活発に行われている。近所同士も仲がいいと思う。でも、これほどの親密さはまだない。年をとった時、近所とこんな風に行き来できたら…。
そのためには理事25年。いやそれはちょと…。

■このコンテンツは、NBS取引先の管理組合、自治会の理事・役員の方のアドバイスを受けて制作しています。物語はフィク
  ションであり、より内容の濃い情報を提供するため、理事の活動をデフォルメしています。ご了承ください。