NBSの連載小説 第二弾

 

Episode6 消防設備会社との出会い(2月某日・晴れ)

僕が、中間管理職の孤独にひたり、ガラスドアに映る冬の月を、潤んだ目で眺めていたころ、マドンナは自宅の自慢のi-macを駆使し、猛烈な勢いで消防設備会社のリンク集を作っていたことを、僕はその数分後に知ることになる。
 隣のコンビニで買ってきたデカ盛りカップうどんにお湯を注ぎ、割り箸を割ろうとしたとき、パソコンから新着メールを知らせるアラームが鳴ったのだ。
「件名:お疲れ様です。差出人:madonna@***.ne.jp」
 なんだろう…こんな時間に。とメールをあけると、
「お疲れ様です。僕さんは、お店の近くの消防設備会社ばかり探しているようでしたが、近隣市にもエリアを広げて、探してみました。参考までに…。」という本文に、エクセルファイルが添付してあった。
 添付を開けると、消防設備会社の名称、規模、特長、連絡先、URL、マドンナの感想が、あたかも物件情報のようにきっちりと数表に整理されていた。

 ああ、僕はなんて幸せな中間管理職だろう…。さっきとは、違う意味で目を潤ませながら、僕は、さっそくマドンナのリストを上からひつつひとつ見ていった。
 そしてついに、僕の目的を満たしてくれそうな消防設備会社を見つけた。
「こ…ここだ。ここしかない」
マドンナの感想を見ると、「現場スタッフは、すべて消防設備士(国家資格)。いろいろ情報提供をしていて、相談に乗ってくれそう。女性の消防設備士もいるので、眼科さんや歯医者さんの更衣室なども安心です」と書かれていた。
 翌日、その会社に連絡をとると、すぐに消防設備士が話を聞きにきてくれた。僕は、消防署の査察官が置いて行った「立入検査結果通知書」を見せ、これからどうすれば良いのか、途方にくれている現状を、包み隠さず話した。 
 消防設備会社の人は、天井裏の配線スペース、作動しているかどうかよくわからない火災報知設備の型式、廊下の幅や長さ、壁紙やカーペットの材質まで、駅前テナントビルの現状を、消防査察官より更に詳細に調べて行った。

防火管理者になった僕 会議室にもどった消防設備会社の人は、「これから、色々たいへんですが、改善する必要に気づいたことは、僕さんにとっても、テナントの方にとっても、また、そこに来るお客さんたちにとっても、いいことに違いないですね」と真剣な目で言った。うん。それに、我が社の社長にとってもいいことに違いない。
 「まずは、消防署が言うとおり改善計画と改修計画を出しましょう。そのためには、いつ、どんな工事や点検をするのかなどを、明らかにする必要がありますので、早急に見積もりとスケジュールを提出します。
 それから、テナントごとに、防火対象物使用開始届出書を提出する必要があります。それには、添付書類として、リフォーム後の見取図、配置図 、各階平面図、消防設備の設計図などが必要です。こちらの図面でないものは、こちらでも作成することができますが、4階に設計会社があるようなので、一部そちらに頼んでみてはどうでしょう。なにしろ、テナントごとに、防火管理者を選任する必要がありますから、一人でも多くの方を巻き込んだ方がいいと思うんですよ」
 ええ!僕だけじゃなく、テナントにも防火管理者が必要なの?僕は、駅前テナントビルに入っている店子の面々を思い浮かべ、これからはじまる様々な交渉が、一筋縄ではいかないことを覚悟した。
 なんたって、アルバイトばかりのコンビニ、変わり者のWEB会社、それに、ああ、地下のアメリカンバーは、オーナーも、スタッフも外国人じゃないかぁ。

消防豆知識

防火対象物使用開始届出書とは

 防火対象物について、施設と管理の両面からその実態を的確に把握するために、防火対象物の使用を開始する前に所轄の消防署に届出をするもの。
既存の防火対象物を改築・改装等することにより新たに開店・改装する場合においてもこの届出が必要。
防火対象物の使用を開始する日の7日前までに届出する。様式は、各市町村の消防本部ホームページなどで、ダウンロードが可能な場合が多い。
【一般的な添付書類】
・見取図、配置図
 
・各階平面図
 
・消防用設備等の設計図書
 など

■このコンテンツは、NBS取引先の不動産会社、防火管理者の方、テナントの方のアドバイスを受けて制作しています。
物語はフィクションであり、より内容の濃い情報を提供するため、防火管理者の活動をデフォルメしています。ご了承ください。