NBSの連載小説 第一弾 僕シリーズについて
Episode 1 理事選出(3月某日・雨)
僕がなぜ、管理組合の理事になったのか。そこから話をはじめたいと思う。その日、僕は妻の”奥さん”に言われて、はじめて住んでいるマンションの”棟別茶話会”というものに顔を出した。
一昨年購入した中古のマンション。共働きの僕ら夫婦は毎日が忙しく、”棟別茶話会”なんて会合があることすら知らなかった。今年待望の”赤ちゃん”が生まれ、産休中の奥さんが「赤ちゃんも生まれたことだし、これからここで子育てしていくんだから、ご近所さんに顔を知っておいていただいた方がいいと思うのよ」と僕を送り込んだのだ。「ならば自分で行けばいいのに…」と思ったが、赤ちゃんを四六時中鎧のように胸に抱えている奥さんには何も言えず、3月末の雨の日曜日、隣の棟の1階にある集会場に出向いたのだった。
僕の住む棟には84世帯が住んでいるが、集会場に集まったのは30名程度。多いのか少ないのかわからないが、きっとこんなものなのだろう。ほとんどの人が僕より年上に見える。若輩者の僕は後方の隅の席に腰を下ろした。
役員さんが取り仕切る中、会合は和やかに進み、練習して来た自己紹介もなんとかクリア。あとはお開きになるのを待つばかり。
インターネットオークションに入札しているベビーカーをいくらで落札できるかそんなことをぼんやり考えている僕に、隣の人がささやいた。
「いよいよ理事・役員のくじ引きですよ。最近はやりたがらない人が多くてねぇ。仕方なくくじ引きになっているんです。私は三年前にお勤めを終えているんですがね。経験のない人がくじを引くので、お宅はあぶないかもしれませんねぇ」。なんだかうれしそうにニマーッと笑う。自慢にはならないが、僕は未だかつて、くじというものに当たった試しがない。「今度も絶対当たらない」という経験に裏付けられた自信を持ってクジを引き、中身も見ずに役員さんに渡した。
「あ~らまぁ。当たりだわ!」紙を開いた役員さんがすっとんきょうな声をあげた。「え?」っと僕は状況がつかめないままその場に突っ立っていた。「理事に当たったんですよ」「まぁまぁ、よろしくお願いします」「お世話になります」「すみませんねぇ」(満場拍手)
嘘だろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
僕はこうして理事になった(総会で承認されるまでは候補ということになるらしい)。今までくじに当たったことがない僕が、よりによって理事のくじを引き当てるなんて!
■このコンテンツは、NBS取引先の管理組合、自治会の理事・役員の方のアドバイスを受けて制作しています。物語はフィク
ションであり、より内容の濃い情報を提供するため、理事の活動をデフォルメしています。ご了承ください。