NBSの連載小説 第一弾

Episode 2  引き継ぎ(4月某日・晴れ)

それから理事候補の会合があり、僕は防災担当の理事になることになった。理事は各棟1~2名ずつ。理事長、副理事長、総務、会計、防災、建築、設備、防犯、広報の役職があり、全員なんらかの役職につくことになる。僕は理事長・副理事長以外の職ならなんでもいいという気持ちで、言われるがままに引き受けることにしたのだ。
  そして4月になり、僕がいつものように、休日の朝寝ぼうを楽しんでいると、奥さんがうるさく起こしに来た。「前年度の理事さんが、引き継ぎをしたいけれど、今日の予定はどうかって?」目をあけると、電話の子機を持った奥さんが立っていた。「う~ん」とうなったつもりだったが、奥さんはすぐに「保留」ボタンを解除して「お待たせしました。大丈夫なようです」と話している。(え?ちょっと待って)「はい。お願いします。気のきかない人なので、ご迷惑かけると思いますが…」(余計なことを)「はい。30分後に集会場ですね。必ず行かせます」ということになり、30分後、にわかになじみ深い場所になった集会場のパイプ椅子に、僕は半分寝ぼけた頭のまま座っていた。窓の外で桜がハラハラと散っていた。

 前年度の理事さんは、ぶ厚いファイルを抱えて集会場に入ってくると「実は転勤になりまして、4月から単身で大阪なんですわ。昨日急な出張でこちらへ戻ってきましたもんで…」と微妙な関西イントネーションで前置きをすると、僕がこれからの1年でやるべきことを、早口で話し始めた。
まずい…。何を言っているのかさっぱりわからない。「キンキュウシャダンベン?」「レンケツソウスイカン?」「ジュウタクヨウカサイケイホウキ?」「ビチクショクリョウ?」 …。
なんとか理解できたことは、うちのマンションの防災担当理事は、地震・台風・火災に備えるために、設備を保守したり、改修を検討したり、備蓄品を管理したりするのが仕事らしい。自治会と連携して、防災訓練なども行うようだ。実は、この防災訓練を取り仕切るくらいが防災担当理事の仕事だろうと甘く見ていた僕は、ショックで立ち直れないような気分だった。
 「細かい計画はこのファイルにあります。(ドン!)それから、資料はこれになります(ドン!)、業者の見積もりなどもあるので、よく検討してください」そう言って前年理事さんは大阪に帰って行った。分厚いファイルと混乱した僕を残して…。

 家に帰って、ファイルを見たが何がなにやら、さっぱりわからない。ただし、5月に行われる管理組合の「総会議案書」の中に、年間計画というページがあり、防災関連の項に今年の計画が書き連ねられていた。今年やることは、ほぼ前年度の理事会が決めてくれているらしい。ほっとしたのもつかの間。そういうことになると、次年度の計画は僕がやるのか? えぇ?!この僕が!

■このコンテンツは、NBS取引先の管理組合、自治会の理事・役員の方のアドバイスを受けて制作しています。物語はフィク
  ションであり、より内容の濃い情報を提供するため、理事の活動をデフォルメしています。ご了承ください。