NBSの連載小説 第二弾

 

Epilogue 思いがけないニュース(1月某日・晴れ)

我が駅前テナントビルに、消防の査察があってから、1年の月日が過ぎた。消防法にのっとった、正しい消防設備を備え、共同防火管理協議会も結成、各テナントから防火管理者も出そろい、自衛消防の体制が整ったのが5月。その後は、きちんと点検もし、飲みながら反省会つきの消防訓練も実施している。どうやら、共同防火管理協議会の会合も、年中行事になるらしく、例の河豚の店を予約してあると、わが社の社長がうれしそうに言っていた。
 査察が来てから、遵法(適法)になるまで、胃に穴が開くような思いを何度もしたはずなのだが、今ではそれもよい思い出だ。今まで、儀礼的なあいさつしか交わさなかった、僕とテナントの関係、そしてテナント同士の関係は急速に深まり、我が駅前テナントビルは、本当の意味で、心地よいビルに生まれ変わった。そのことを思えば、僕がしたことは、ビルを遵法にした以上の価値があるように思えるのだ。

防火管理者になった僕「関係が深まった」といえば、ひと組これ以上親密な関係はないほど、深まった2人がいる。
わが社の赤一点マドンナが、花の独身生活に別れを告げ、ついに結婚することになったのだ。

結婚式は、市内の海の見える教会で、社長夫妻の媒酌のもと、1月の週末に行われた。付き合い始めてからわずか半年足らずの電撃結婚。マドンナらしい心配りで、式には駅前テナントビルの防火管理者全員が招待された。


え?相手?相手はもちろん、レスキューラインの設置工事のときに熱をあげていた消防設備会社のマッチョなイケメン…と、僕もマドンナが、「実は結婚することになりました」と言われたとき、即座にそう思った。
しかし、そうではなかったのだ。あれは、間接的なモーションで、実はターゲットは別だったのだという。まったく女性はわからない…。

防火管理者になった僕マドンナの真のターゲットは、この人。我が駅前テナントビルを利用する女性の80%、男性の1%が熱をあげた驚異のイケメン。塾講師だった。

「まぁ、そんなもんね」とWEB会社の女社長は、顔色ひとつ変えず言ってのけた。あれ以来、僕はときどき、なにか用事をみつけては、この事務所に行くようになった。ビアジョッキクラスのマグカップに入れられたコーヒーを飲みながら、世間話をするだけなのだが、この人のストレートな判断が、ヒントになることがあるのだ。愛想の悪いあの事務員は、僕を迎える時に見せていたあのあからさまな嫌な顔をすることもなくなった。僕のことを好きになってくれたわけではなく、我が駅前不動産のホームページをお願いしたからなのだけれども。

防火管理者になった僕式の当日は、冬の澄んだ青空が空一面に広がり、2人の門出に天も祝福しているようだ…と披露宴のスピーチで言ったとおりの天気だった。ただし、僕のすぐ横の人物は、大雨警報発令状態。式の最中泣き通し、披露宴ではしゃくりあげ、二次会では号泣に突入。
その後2人で行った3次会では、暴風波浪警報状態で手がつけられなかった。「そんなに好きだったのか」と聞くと、「NO、ただ泣けるきっかけをみつけただけ」という答えが帰ってきた。マスター、全く、君をみていると、男性というものもよくわからなくなってくるよ。

■このコンテンツは、NBS取引先の不動産会社、防火管理者の方、テナントの方のアドバイスを受けて制作しています。
物語はフィクションであり、より内容の濃い情報を提供するため、防火管理者の活動をデフォルメしています。ご了承ください。