NBSの連載小説 第一弾
Episode 10 防災訓練 (9月某日)
僕の奥さんは、行動力がある。優柔不断な僕が、彼女にであってから、あれよあれよといううちに、夫になり、マンションを買い、父親になった。管理組合の理事になったのも、実は彼女の計画通りなのではないか、と時々思ったりする。会社と家の往復だけの毎日が、地域活動で忙しくなったことを、一番喜んでいるらしい節があるのだ。休日と言えば、ゴロゴロ寝ているか、奥さんの買い物にくっついていくしかなかった僕。将来「濡れ落ち葉」になることは目に見えていたから、それも仕方がないだろう。
防災訓練の日、僕は、濡れ落ち葉予備軍から脱却したことを、奥さんに見せたくて、朝から張り切っていた。まずは、防災訓練を指導しに来てくれた消防車を、団地内の広場に誘導。自治会の奥さんたちが作る試食用の炊き出しの進行状況をチェック。10:30定刻に、メガホンで「訓練。ただいま強い地震がありました」と各棟に呼びかけ、防災訓練がはじまった。
試食があるせいか、はしご車に試乗できるせいか、はたまた参加者は災害用の缶詰のパンがもらえるせいか、管理組合総会よりも遥かに多い人が広場に集まった。まずは、防災訓練の流れを説明。
消防設備会社の協力のもと、本物の消火器で、火を消す体験には、長蛇の列ができた。行動力のあるうちの奥さんも、率先して参加。何をしても僕よりうまい、彼女は一発で火を消し止め、周囲の拍手を浴びていた。さすが我が妻!
その後は、ビニール袋につめた米をゆでるようにして炊いたごはんに、レトルトのカレーをかけた炊き出しを食べ、ちびっ子たちは、消防車の乗車体験。
防災倉庫から、
簡易トイレを出して来て、組み立て訓練も行った。家のマンションでも、震災の時、最も困ることのひとつである、トイレを10基ほど購入してある。古いタイプのものは、汚物を厚手のビニールの中に溜める物だが、最新のものは、下水のマンホールに直結して設置できるようになっている。まずは、座る部分を組み立て、上から、縦型のテントをかぶせる。思ったより大きく、大人3人の作業で、1基20分ほどの時間がかかった。
組み立てが終わると、たくさんの人が中を覗いたり、入り口のチャックを開閉してみたり、興味津々の様子。うちの奥さんにいたっては、つかつかとなかに入り、やおら座ってみたりしている(実際に使っているわけじゃないけれど…)。行動力ありすぎ
最後にお土産を配って、防災訓練はお開きとなった。
終了後の後片付けをしながら、消防設備会社の人がしみじみと言った。「1年に1回でも、こうやって、住民の方たちが出て来て、顔を合わせること。実はそれが一番の訓練なんじゃないかと思うんですよ」と。
■このコンテンツは、NBS取引先の管理組合、自治会の理事・役員の方のアドバイスを受けて制作しています。物語はフィク
ションであり、より内容の濃い情報を提供するため、理事の活動をデフォルメしています。ご了承ください。