管理組合の皆さまへ
Episode14 点検&工事(3月某日・晴れ)
テナントの防火管理者が出揃い、我が駅前テナントビルの防火管理体制がとりあえず整いそうな見通しがついて、僕はひとつ肩の荷が軽くなった気がした。たぶん、統括防火管理者になることが決まったあの日以来、僕が、僕だけが、ひとり、このビルの安全を担わされているような気がしていたのだと思う。これからは、その責務をテナント部分の防火管理者が、少しずつ担ってくれる。そして、いずれ、このテナントビルで働く人たちひとりひとりが、各自、「防火」や「消防」という意識を持ったとき、その荷物はきっともっと軽くなるのだろう。
そして、もう一つ安全という名の荷物を背負ってくれる存在がある。それは、消防査察の直後から、いろいろと相談にのってくれている消防設備会社だ。僕が、防火管理体制を整えている間に、消防設備会社は、設備面の遵法化(適法化)の計画を進めてくれていた。
そして、3月下旬。消防設備点検と防火対象物点検、そして消防署に指摘された箇所+最初に現場調査に来てくれたときに発覚した設備不良の改修が1日で行われた。何日も日程を分けるより、早くそしてコストも安く済むということだった。
僕は、統括防火管理者として、一日彼らについてまわったが、他の消防設備士と連携を取りながら、非常に効率的に動くことにある種の感動を覚えていた。また、女性消防設備士がいるため、歯科や眼科の更衣室も安心だった。3年間点検をしてこなかった上に、リフォームもしているため、消火器の本数が足りなかったり、新たに誘導表示が必要だったり、誘導灯がつかなかったり、その場でも新たな不良箇所が見つかったが、それもこの消防設備会社には、想定内だったらしく、次々とその場で直されていく。
工事のメインは、僕がフロアを仕切ってしまったために生じた2階と4階と6階の未警戒部分の感知器設置だ。廊下の受信機の電源から、天井裏に電線を延ばし、丸く穴を開けた天井から出したコードに感知器を取り付けていく。取り付け後、点検器具を使って、正常に作動するか確かめると、非常ベルがフロアに鳴り響いた。即座にベルは切られたが、僕の耳にはそのベルの音が、このビルが安全になったと知らせているかのように思えた。
その場で、直せないのは、避難器具だった。地下は、もともと倉庫として使用していたのを仕切ってテナントスペースを作り、アメリカ人経営のバーが入居したのだ。そのため、駅前テナントビルは消防法でいう「特定一階段防火対象物」となってしまっていた。特定一階段防火対象物建物内とは、屋内に階段が1つしか階段がなく、1、2階以外の階に飲食店、医院・病院、店舗、風俗店など、特定用途部分がある建物のことをいうらしい。地下にバーが入ったおかげで、避難器具は以前からついていたものではなく、一動作で作動するものにしなければならないのだ。この工事は、やや大掛かりなため、別の日程が組まれていた。
点検が終わって、数日後。消防設備会社の人が、点検報告書を持ってきてくれた。消防署に改善報告をするため、急いで作ってくれたものだった。
防火管理者の講習も終わっていないため、「防火管理者選任」や「消防計画の提出」は、まだできないが、設備面では、避難器具を除いて、すべて遵法化され、また、防火戸の前の障害物など、消防法上「不適切」とされる建物の使用方法も改善された。
あの笑顔の怖い年配の消防査察官に会うのが楽しみになってきた。彼はきっと、僕のがんばりを認めてくれるに違いない。
特定一階段防火対象物とは
特定一階段等防火対象物とは、屋内階段が1つしかなく、1階・2階以外の階(3階以上の階および地下)に特定用途部分がある建物をいう。また、階段が2つあっても、避難上有効な開口部がない壁で区画されている場合も1つと見なされる。特定一階段防火対象物には、その面積に関わりなく、自動火災報知設備の設置や、1動作で作動する避難器具の設置、防火対象物点検義務など、より厳しい規定が定められている。
特定用途とは
消防法施行令別表第1に掲げられている(1)項~(4)項、(5)項イ、(6)項、(9)項イの用途で、映画館や飲食店、ホテル、デパートなど不特定多数の人が出入りするもの。
非特定用途とは
消防法施行令別表第1に掲げられている(5)項ロ、(7)項、(8)項、(9)項ロ、(10)項~(15)項の用途で、工場や事務所、マンションなど。
→消防法施行令別表第一はこちら
■このコンテンツは、NBS取引先の不動産会社、防火管理者の方、テナントの方のアドバイスを受けて制作しています。
物語はフィクションであり、より内容の濃い情報を提供するため、防火管理者の活動をデフォルメしています。ご了承ください。